薬剤師夫婦/夫です。

心不全の薬物治療においては、退院後の薬物継続が予後に大きく関与する。とくに近年のガイドラインでは、ARNI、β遮断薬、MRA、SGLT2阻害薬といった“4本柱”の早期併用が推奨されており、入院中にこれらの薬剤が導入されるケースが増えている。
しかし、こうした入院中に追加された薬剤が、退院後に継続されないことで再入院につながるケースも少なくない。筆者が経験したのはまさにそのような症例である。心不全治療で入院後、ENT処方で追加されたMRAが、かかりつけ医のもとで継続されず、結果として数週間後に再入院となった。
この経験から痛感したのは、「薬の引き継ぎ」の難しさである。退院時に退院サマリーや紹介状は作成されていたものの、薬の変更意図や中止リスクについて十分に共有されていたとは言い難い。また、服薬支援や残薬管理といった面で、地域のかかりつけ薬局の果たす役割は非常に大きいにもかかわらず、薬局に対する情報提供は限定的であった。
そうした中で参加したワークショップでは、「薬剤管理サマリー」という取り組みが紹介され、多職種間の情報共有における有用性が実感できた。医師・薬剤師・訪問看護師・ケアマネジャーなど、職種の垣根を越えて薬物治療の継続性を支える仕組みとして、薬剤管理サマリーの意義は非常に大きい。
特に以下のような点が印象的だった。
退院後に継続すべき薬剤とその根拠が一目でわかる
かかりつけ医だけでなく、薬局・訪問看護との連携が促進される
処方中止の際の注意点など、治療の意図を明示できる
こうした情報が一元化されることで、「継続すべき薬が中止される」「副作用に気づけない」「服薬アドヒアランスが低下する」といったリスクを大きく減らすことが可能となる。
この学びを受けて、筆者は当院でも薬剤管理サマリーの導入を進めることに決めた。まずは心不全患者を中心に試行し、院内の医師や看護師、地域の薬局とも連携しながら、運用方法を整えていく予定である。
心不全は慢性疾患であり、急性増悪と再入院を繰り返しやすい。その悪循環を断ち切るには、退院後の薬物治療の継続が欠かせない。薬剤師が「院内から地域へ」と情報をつなぎ、多職種で患者を支える体制をつくることが、薬物療法の質と予後を大きく左右すると改めて実感した。