薬剤師夫婦/夫です。
今日は希少疾病について。
薬剤師として現場で働いていると、中にはとても珍しい病気で受診される方と関わることがあります。
これまでに2人とALS(筋萎縮性側索硬化症)患者の治療に携わりました。
お一人は退院時カンファレンスから自宅での療養をサポートさせていただきました。
薬物治療については、内服と注射による治療と進行抑制に効果が期待できるものが1種類ずつあります。
それ以外は対症療法です。
原因がいまだ不明の為、有効な治療が確立されているわけではなく、今も研究が進められている段階です。
有効な薬物治療が研究されている中でも病状は進行する為、様々なアプローチでの治療が行われています。
その中で今回勉強したのは食事療法です。
薬と食事は共に体にとっては異物であり、リスクとベネフィットがあり、その違いは病気に対しての治療効果の有無だと考えています。
本邦で薬価収載され保険適応されている医薬品はいずれもエビデンス(最近この言葉が巷でやたらと乱用されていることが気になる)レベルの高いデータが蓄積されたものです。
食品は治療の為に使われている訳ではないので、あくまで食品として消費されます。
従って食事療法という言葉には一定の矛盾を感じざるを得ません。
しかし医療において食事は切っても切れない間柄です。
薬剤師も食事を考慮(食事の影響を受ける薬物も沢山ある)した上での薬物治療にあたりますが、薬物と食品(サプリメント含む)を明確に分けて考えます。
それは勿論薬物治療がEBM (エビデンス)に基づくものだからです。
話を元に戻すと、今回読んだ本の内容はとても興味深く、これが科学的に証明されれば病気で苦しむ方の治療の手助けになることは間違いありませんし、個人的にもそれを望んでいます。
ただし、薬剤師の立場からこの本を根拠にこの本の通りに実践することをお勧めすることはできません。
それは前述の通りの理由からです。
希少疾病はN数(被験者数)が限られる為データの蓄積が容易ではありません。
だからこそ、国はお金をかけて研究を進める援助をしていますが、国民としては正しい情報(科学的根拠のある情報)を取捨選択する必要があります。
日常的な治療でデータを見るとき、一番手っ取り早いのはN数を見ることです。
N数が多いほどエビデンスレベルは高くなります。
そもそも一次資料の一つの論文を参照することは稀で、サプリメントがわかりやすいですが、「個人の体験談」などとあるのはつまりN=1であり、仰々しくグラフを載せて『見せ方』で信用を得ようとしたものも巷に散見されますがどれもN数は良くて30程度です。
医薬品はプラセボ(偽薬効果)を排除した上で有意差があると判定できるものを桁違いのN数で実験し、同様の論文を幾つも集めメタ解析したものが治療ガイドラインの推奨として上位に上がってきます。
これを根拠を薬剤師は薬物治療を行います。
薬を渡しているだけのように見えて、全てはエビデンスに基づくものです。
薬局で「この薬は効きますか?」と質問されたら(日常的には難しいですが、)薬剤師としてはその疾患におけるガイドラインの薬物治療を根拠に示すことが正解となります。
最後に、この記事で伝えたいことは食事療法を否定することではなく、薬剤師の立場からこの本を自分の患者さんに渡し推奨することはできないということです。
感情的には少しでも希望の光となり、患者さんが勇気づけられ気持ちが元気になってそれが生きがいになるのであればお勧めしたい気持ちもありますが、私は薬剤師としてこの患者さんに携わっている以上、エビデンスに基づく薬物治療に専念することが使命です。
一刻も早い研究の進展と治療の発展を願います。