薬剤師夫婦の日常

子供のことや薬の話

【専門性】薬剤師が伝えるべきこと

 

薬剤師夫婦/夫です。

 

今日は一歩踏み込んだ事を考察しようと思います。

 

勤務先の上司と食事に行く機会があり、キャリアパスについて考えさせられる中で、『薬剤師の専門性とは何か』について自分自身を見つめ直していました。

 

これからの薬剤師にはより専門知識で医療に関わる必要があり、『薬を渡すだけ』の薬剤師はもう通用しません。

 

専門性とは「特定の分野についてのみ深く関わっているさま。高度な知識や経験を要求されること、またはその度合い。」(Weblio辞書、実用日本語表現辞典より)

 

薬剤師にとっての専門性とは薬学についての知識です。

 

薬学は物理、化学、生物をベースにして、公衆衛生学、生化学、薬理学、薬物動態学、製剤学、薬物治療学などに大別される学問です。

 

各々がくっついたり離れたりしますが、ざっくりとはこれらのどこかに分類されます。

 

これらをトータルで身につけている者が薬剤師とされてます。

 

医学と比較すると、ベースは同じですが、薬理学や薬物動態学は医師も深く学んでいる事は稀であり、ここに薬剤師が専門性を発揮できる道があるのではないかと考えています。

 

現場においては、薬理学や薬物動態学に基づく副作用リスクを予め他の医療従事者や患者、患者家族に伝えることで、治療方針自体変更になる可能性もあります。

 

グアンファシンという薬があります。

 

AD/HD(注意欠陥/多動性障害)に用いられます。

 

作用機序=薬理学的には「前頭前皮質の錐体細胞の後シナプスに存在し、ノルアドレナリンの受容体であるα2A 受容体を選択的に刺激することで、シグナル伝達を増強させる」(シオノギ製薬、インチュニブ適正使用ガイドライン)とあります。

 

これを読んで薬剤師は、他剤の降圧薬『メチルドパと作用点は一緒か。』となります。

 

実際、グアンファシンは過去に降圧剤の適応を持った医薬品として流通していました。(現在では降圧剤としては販売中止。)

 

つまり高血圧ではないAD/HD患者にグアンファシンを用いた場合、副作用として血圧低下と徐脈が起こる可能性があります。

 

このように作用機序から副作用を予測することができます。

 

少し前のこと、グアンファシン服用中の施設入居中の方で脈が40程度が継続したことがありました。

 

ご家族の希望で受診され、主治医からは「インチュニブ による徐脈と考えられるが、中止の必要はない。」との診断がありました。

 

診察時、脈拍60程度と正常値でもありました。

 

しかし家族の強い希望とふらつきも時折ある(ご本人は障害を持つことから自覚症状の訴えは乏しい)との聞き取りからインチュニブ減量の判断になりました。

 

1日6mg→1日4mgにして漸減する方針で指示があり、診断当日から減量しました。

 

ところがその三日後、施設で過ごしていたところ介護職員に対して、減量前には見られなかった暴力行為がありました。

 

即時主治医に連絡し、6mgへ戻す指示があり、戻した後はそういった行為は見られません。

 

その後施設職員に対して本人は「ごめんな。ごめんな。」と自分の衝動が抑えられなかったことを何度も後悔している様子だったそうです。

 

これを聞いた私は、薬剤師として『減量に慎重な姿勢を取れなかったか。』『指示をただ鵜呑みにしていなかったか。』反省しました。

 

何より暴力を受けた職員(怪我はありませんでした。)もそうですが、本人が減量により精神的なダメージを受けた可能性があることが悔やまれます。

 

家族の固定観念として『グアンファシンは強い薬物』というのがあったとすれば、薬剤師としては『降圧剤として適応を持っていたくらい、他のAD/HD治療薬と比較して安全な薬である。』と言う情報提供をしていれば、また治療方針は変わっていたかもしれません。

 

医師も元々はグアンファシンが降圧剤だったことは知っていたとは思いますが、家族も薬剤師からそれを聞くとまた違って聞こえたかもしれません。

 

このように薬学的知識を用いた情報提供で治療方針に介入することがこれから求められていると考えているので、引き続きアンテナをはって日々の診療の役に立てるよう努めます。