薬剤師夫婦/夫です。

冠動脈ステント留置後の血栓予防には抗血小板薬の併用が推奨されており、日本ではクロピドグレルまたはプラスグレルが主に用いられている。その中で「プラスグレル低用量」という言葉を耳にすることがあるが、これは日本における独自の投与設計を反映したものである。
日本でのプラスグレル用量は“低用量”
プラスグレル(商品名:エフィエント)は、P2Y₁₂受容体を阻害することで血小板凝集を抑制する強力な抗血小板薬である。海外では維持量10mg/日、初回負荷量60mgが標準とされているが、日本ではこの量では出血性合併症が多く報告されたことを背景に、維持量3.75mg/日、初回負荷量20mgという低用量で承認された。これが「プラスグレル低用量」と呼ばれるゆえんである。
この日本特有の用量は、アジア人、とりわけ日本人が抗血小板薬に対して出血感受性が高いことを反映している。国内で実施されたTRITON-TIMI 38サブ解析やPRASFIT-ACS試験などでは、低用量であってもクロピドグレルよりも高い抗血小板効果が認められた一方、出血リスクの増加は抑えられており、エビデンスに基づく設計であることが示されている。
クロピドグレルとの比較
クロピドグレルは代謝酵素CYP2C19の遺伝的多型により効果にばらつきが出る一方、プラスグレルは代謝の影響をほとんど受けず、より安定した効果が得られる。特に、日本人に多く存在するCYP2C19の低代謝型では、プラスグレルが選択されることが多い。
ただし、プラスグレルはより強力であるがゆえに、高齢者(75歳以上)、低体重(50kg未満)、脳出血の既往がある患者では禁忌または慎重投与が必要とされる。
まとめ
プラスグレル低用量とは、日本人の体質と出血リスクを考慮して、海外用量の約1/3に抑えた設定である。これは単なる「減量」ではなく、エビデンスに基づいた設計であり、日本人にとって最適化された治療戦略といえる。クロピドグレルとの使い分けにおいては、遺伝子多型の影響や出血リスク、患者背景を踏まえた慎重な選択が求められる。