薬剤師夫婦の日常

子供のことや薬の話

高齢者糖尿病治療におけるDPP-4阻害薬の適正使用を考える

  

薬剤師夫婦/夫です。

 

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― シタグリプチン増量よりも、テネリグリプチンへの変更が選ばれた理由 ―

 

 

89歳女性、内服中のシタグリプチン50mgで効果が不十分と判断され、100mgへの増量指示が出された症例。しかし、腎機能低下がみられたこと、そして血糖値の絶対値(HbA1c6.9%)からみても強化療法の必要性が高くないことから、増量を避け、他剤への切り替えが検討された。

 


本症例では、以前にビルダグリプチン使用時に肝機能障害の疑いがあったため、腎排泄と肝代謝のバランスが良いテネリグリプチン20mgが新たに選択された。DPP-4阻害薬は一見どれも似たような効果を持つが、薬物動態や安全性プロファイルは異なるため、高齢者や腎機能低下例では慎重な選択が求められる。

 


特にシタグリプチンは腎排泄型であり、eGFRの低下が進行している場合、増量による有効性の上乗せが乏しいにもかかわらず、薬物血中濃度上昇リスクがある。日本の添付文書でもeGFRに応じた用量調整が推奨されており、eGFR<50であれば50mgまでに制限されることが多い。

 


一方、テネリグリプチンは肝代謝と腎排泄の両方を介しており、eGFRにかかわらず用量調整が不要である。また、肝障害の報告も比較的少なく、1日1回投与という点もアドヒアランスの維持に寄与する。

 


糖尿病治療においては、「目標達成=強化」ではない。特に高齢者では、低血糖リスクや薬物有害事象を回避しながら、生活の質を守ることが重要である。本症例のように、HbA1c6.9%という数値は、むしろ「これ以上の強化は必要か?」と立ち止まるべき指標である。

 


高齢者糖尿病では、「薬剤の増量」よりも「適剤の選択」がポイントとなる。安全性と利便性のバランスを取りながら、患者に最適な治療を提供していく視点が、薬剤師に今こそ求められている。