薬剤師夫婦の日常

子供のことや薬の話

【オーダーメイド】個々に合わせた状況判断

 

薬剤師夫婦/夫です。

 

個人在宅は患者さん個々のご自宅にお邪魔するので一つとして同じ状況、シチュエーションというものがありません。

 

先日伺ったお宅にて、(よくある事ですが)事前に情報がなかった服薬が発覚しました。

 

歯科にかかられた際、治療の為抗生剤が開始となったご様子でした。

 

歯科ではなかなか併用薬のチェックまでは難しいことが多く、今回の場合もおそらく併用されてる薬までは歯科医の先生は見られてなかった可能性があります。

 

    アジスロマイシン 2錠分1夕食後 3日分

 

伺ったタイミングが服薬の最終日でした。

 

この抗生剤は3日の服用で7日間の効果が持続します。

 

その為にも3日間は飲み切って頂くことが重要で最優先事項です。

 

さてこの時、この方が夕食後に服薬されている定期薬の中に以下の薬がありました。

 

    酸化マグネシウム330mg 3錠分3 毎食後

 

結論から申し上げると、前述の抗生剤と同時に服用すると抗生剤の効果が減弱する可能性があります。

 

抗生剤と金属はキレート形成と言って、お互いが結合してしまい、抗生剤が消化管から吸収されず、効果を発揮するに至らなくなります。

 

対策としては2時間程度服薬をズラすことです。

 

お互いが結合することなく抗菌効果を発揮します。

 

薬剤師なら国家試験でも頻出であり、9割以上の殆どの方が知っている内容です。

 

ここで現場での個別の事象が問題を複雑にします。

 

  ①患者自身がお薬カレンダーを用いて服薬管理をしている。(おくすりのセットは薬剤師が行っている)

 

  ②認知症をかかえており、変化に弱く、新しい物事を強要することは難しい。

 

  ③定期薬の服薬は習慣化されており、飲み残しは少ない。

 

  ④下剤(酸化マグネシウム)はスキップせず毎食後服用で排便コントロールされている。

 

  ⑤2日分の抗生剤は酸化マグネシウムと同時に服用したものと推測される。

 

以上の条件が加わると答えは一つとは限りません。

 

  対策❶ 2日間同様3日目も同じように服用してもらう。

 

  対策❷ 伺った日の酸化マグネシウムだけ抜き取る。

 

  対策❸ 付箋を付けて酸化マグネシウムだけ別にして2時間後に服用してもらう。

 

以上の選択肢を考え、実際に私がとった行動は対策❶です。

 

根拠としては、(以下専門的内容となります。)

 

アジスロマイシンは時間依存型抗菌薬であり、マグネシウムとの併用でCmax (濃度ピーク)は低下するものの、AUC (濃度曲線下面積)は不変とのデータがあること。

 

7日間効果の持続するアジスロマイシンの特性上、下降曲線が後ろに伸びるリスクと3日目の抗菌薬の服薬が出来ず想定される抗菌作用が期待できないリスクを天秤にかけた時、前者の方が治療上メリットがあること。

 

以上より、前述のような判断に至り、患者さんには「きっちり3日目も服用してください。」とだけお伝えしました。

 

100人薬剤師がいたら100人が同じ判断をしたとは限らない事例です。

 

『酸化マグネシウムを毎食後飲んでいて、一回飛ばしたぐらいで便秘になることはないだろう。』

 

と言われる方もいると思います。

 

それに関しては、認知症患者に対して「酸化マグネシウムをスキップするからね」と伝えたところで数時間後には忘れてしまっている可能性が高く、付箋で注意喚起して『酸化マグネシウム抜いてます』と残したとしても(変化に対応できず)余計に混乱を招く可能性が高いと判断(ここは個別症例のその場での判断)し、それなら2日間服薬できていたならこの調子で確実に3日間飲み切ってもらった方が(変化が最小限となり)抗菌作用も最大化させる(想定に届かずとも)との判断に至った次第です。

 

黙って酸化マグネシウムを抜くこともできましたが、患者の同意が得られない状況で実行することは困難と判断しました。

 

在宅訪問薬剤師ならではの行動かもしれません。

 

このようなことは頻繁に起こります。

 

想定外の受診による臨時の服薬などはケアマネジャー等と情報交換、情報共有を密にする事である程度は回避できますが、全ての症例に対して完璧に把握することは難しく、引き続き現場での対応、対策が必要とされ、今回のように薬剤師には、薬学的観点から治療上の優先順位をつけ最適解を導くことが求められているのではないかと感じる場面でもありました。