薬剤師夫婦/夫です。

トラマドールは慢性疼痛やがん性疼痛に対して幅広く使用される薬剤である。たとえば、慢性腰痛や変形性関節症といった慢性痛には非常に有効であり、特にNSAIDsやアセトアミノフェン単独での疼痛管理が不十分な症例に適している。
また、神経障害性疼痛に対しても、プレガバリンやデュロキセチンなど他薬と比較しながら、患者に応じて選択されることがある。
一方、急性疼痛(術後や外傷など)では、NSAIDsやアセトアミノフェンの方が即効性・効果の面で優先されることが多く、トラマドールの使用は限定的である。
トラマドール(商品名:トラマール®、トラムセット®)は、非麻薬性ながらオピオイド受容体に作用する鎮痛薬であり、慢性疼痛やがん性疼痛の治療に幅広く使用されている薬剤である。
トラマドールの作用機序と特徴
トラマドールは、μオピオイド受容体への弱い作動作用と、ノルアドレナリン・セロトニン再取り込み阻害作用という二重の鎮痛機序を持つ。そのため、NSAIDsやアセトアミノフェンでは不十分な痛みに対しても効果が期待できる。
また、CYP2D6で代謝され、活性代謝物に変換されることで鎮痛作用を発揮するが、この代謝酵素の活性には個人差がある点も臨床上の注意点である。
特にがん性疼痛に関しては、2020年に適応追加され、オピオイド導入初期の選択肢としての重要性が増している。
製剤バリエーションの豊富さ
トラマドールには即放性、合剤、徐放性など、さまざまな製剤が存在しており、患者ごとに合わせたきめ細やかな対応が可能である。
服薬回数を減らしたい高齢者や、疼痛コントロールが安定している患者にはワントラムが有用である一方、1日2回で調整可能なツートラムは柔軟性が高く、導入・減量いずれの場面でも便利である。
トラマドールには複数の製剤が存在し、それぞれの特徴を活かした使い分けが可能である。
即放性の製剤である「トラマール®」は単剤であり、25mgや50mgが用意されている。
「トラムセット®」はアセトアミノフェンとの合剤で、トラマドール37.5mgとアセトアミノフェン325mgを含有する。相乗的な鎮痛効果が期待でき、変形性関節症などの慢性痛に好まれる製剤である。
「ワントラム®」は1日1回投与で効果が持続する徐放性製剤であり、血中濃度を安定させることで副作用の抑制とアドヒアランス向上が見込める。1日1回の服薬で済む点は高齢者にも有利である。
また、「ツートラム®」は1日2回投与の徐放性製剤であり、服薬コンプライアンス向上が期待できる。
腎機能低下時の使用に注意
トラマドールおよびその活性代謝物は主に腎排泄であるため、腎機能低下例(特にeGFR<30)では慎重投与または投与間隔の延長が必要である。末期腎不全例では代替薬(例:フェンタニル貼付剤、ブプレノルフィン徐放錠)を検討すべきケースもある。
まとめ
トラマドールは、非麻薬性でありながらオピオイド様の鎮痛作用を持ち、慢性疼痛やがん性疼痛の選択肢となり得る薬剤である。
製剤設計の工夫により、頓用から持続投与まで幅広く対応可能であり、特にトラムセット®(アセトアミノフェン配合)やワントラム®・ツートラム®といった製剤の選択肢が患者ごとの疼痛管理を柔軟にサポートする。
一方で、代謝個人差や腎機能への依存性、副作用(眠気、せん妄、便秘など)への注意は常に必要である。適切な薬剤選択と用量調整、そして定期的な評価により、安全で有効な疼痛管理が期待できる。
