薬剤師夫婦の日常

子供のことや薬の話

【主治医】薬剤師としてやるべき事

 

薬剤師夫婦/夫です。

 

主治医をググってみると、

 

『主治医とは、特定の患者に対して医療サービスを提供し、病気や怪我の治療に関して主に責任を負う医師』

 

と定義されていた。

 

薬剤師、取り分け薬局薬剤師は社会的に役割を理解されにくい傾向にある。

 

「薬を取り揃えるだけ」「薬を袋に詰めるだけ」「薬の数を確認するだけ」

 

実際そのような仕事だと勘違いしている薬剤師もいるから厄介ではある。

 

薬剤師は薬学を駆使して、薬物の適正使用を推進する事を生業とする。

 

薬剤師は科学者であり、エビデンスを基に患者に有益となるような情報を提供する。

 

重要なのは【誰に】対して情報提供するのか。

 

対象が『患者だけ』或いは『ほぼ患者』だとすれば、薬剤師の役割としては不十分だと言わざるを得ない。

 

病院で薬剤師をしていて確信したことがある。

 

それは『治療における最終責任を持つ主治医と、協議する事なく薬物の適正使用はありえない』

 

治療するにあたって、薬物治療は選択肢の一つでしかない。

 

あらゆる疾患を学び、正確に診断する事に集中する医師にとって、治療はその次の段階。

 

診断がつかなければ治療方針は決まらない。

 

治療方針の中で薬物治療が選択される可能性があると言うこと。

 

医師が6年間の医学部生活で薬についての勉強をどのくらいするか。

 

『慶應義塾大学 医学部 医学研究科 - 教育 - 学部教育の流れ  ガイドブック 2021』 より引用

https://www.med.keio.ac.jp/education/undergraduate/curriculum.html

 

専門教育科目①基礎社会医学系科目→25科目 ②臨床医学系科目→36科目 

 

薬理学はその内の一つでしかなく、ADME(吸収、分布、代謝、排泄)を考慮した薬物送達システムを学ぶ、薬物動態学を学ぶ機会はほぼない。

 

薬の用法用量を規定するPK/PD理論を学ぶ機会もほぼない。

 

勿論こんな事でマウントを取りたい訳ではない。

 

医学部では薬以外に学ばなければならない事が多すぎる。

 

医学部のごくごく一部を掘り下げて6年間学ぶのが薬学部である。

 

話を元に戻す。

 

医師は治療に関して主に責任を負う。

 

だとするなら、薬剤師は薬物治療に関して責任を負うべきである。

 

ここから複雑になるが、薬を処方する(処方権)のは医師である。

 

薬剤師には処方する権利(処方権)はなく、調剤する権利しかない。

 

私は個人的にその事に対して不満はない。

 

何故なら、責任の所在や意思決定、司令塔があやふやになる事は質の高い医療の提供には逆行すると思うからである。

 

薬剤師の役割は「情報提供」にこそあると考える。

 

ドラマ『仁 - JIN - 』の主人公のように脳外科医がペニシリンの有機合成のレシピを知識として知っている事は(それ自体)奇跡だと断言できる。

 

薬の事を6年間学んできた薬剤師の知識は医師にとって強力な武器になる。

 

従って、医師は薬剤師(他にも理学療法士も同様)を『先生』と呼ぶ。

 

チーム医療と言われて久しいが、司令塔の役割を担う医師が飛び道具を使うにあたり、その扱い方を熟知した結果と言える。

 

「腎機能低下してるけど、この用量でいいかな?」

「類天疱瘡の被疑薬はこの中にある?」

「同種同効薬の違いを教えてほしい。」

 

など。

 

製薬メーカーに聞けば答えてくれそうな事もあるだろう。

 

ただし、一分一秒を争う場面でメーカーのコールセンターに問い合わせている時間はないし、先の例で言えば、製薬メーカーの異なる同種同効薬についての情報提供はコンプライアンス的に困難な時代となっている。

 

では治療上必要な情報提供をコンプライアンスを理由に拒み続けて良い医療ができるだろうか。

 

企業と無関係の薬剤師は『薬学的観点』から同種同効薬の違いを説明できるプロである。

 

なぜなら化学構造式から分子レベルで生体内での作用機序を予測し、効能効果を予測できるから。

 

薬剤師が医師への情報提供、つまり医師との協議を行えば、より質の高い医療が(理論上)提供できる。

 

「心不全が背景にあるならAよりもBの方が良いと思います。」

 

従って私は、医師と医療の話、治療の話、薬の話をしている時にこの上なく幸福に感じる。

 

協議の結果として、より質の高い医療が提供できているから。

 

これが薬剤師としてやるべき事。