薬剤師夫婦の日常

子供のことや薬の話

【心房細動】用量の決め方

 

薬剤師夫婦 夫です。

 

今日は心房細動について。

 

心房細動とは読んで字の如く、心臓の上の部屋である心房が細く震える病態です。

 

不整脈の一種で、自覚症状のある方もいればない方もいます。

 

自覚症状の有無に関わらず、薬物治療が必要となるのには理由があります。

 

左心耳血栓

 

人間には『これ、人間の体に必要ある??』という部分がいくつかあります。

 

そのうちの一つが左心耳と呼ばれる部位です。

 

心臓の左心室に存在する、耳のように出っ張りのある部分です。

 

何の為に出っ張ってるのかはまだわかっていません。

 

ただ、この部位、心房細動を持つ方には致命傷となる原因を作る場になりえてしまいます。

 

心房細動で血液の流れが滞るとこの左心室の左心耳に血栓、血の塊が形成されてしまいます。

 

この血栓が何かの拍子に左心耳を抜け出し、全身循環した場合どうなるか。

 

ご想像の通り、脳に詰まれば脳塞栓となります。

 

これを防ぐ為には心房細動を治すか、血栓を作らせないようにするか。(あるいは左心耳を閉じるか)

 

年齢などを考慮して手術を選択する場合(一回で完全に心房細動が治るとは限らない)もあれば、薬物治療でイベントのリスクを下げる選択になります。

 

DOACと呼ばれる抗凝固薬はいくつか存在しており、様々な臨床試験を経て日本の保険診療でもちいられています。

 

今日も新規でDOACの内服を開始される患者さんの来局がありました。

 

「心房細動と言われました。自覚症状は特にありませんでした。」

 

まずは何故飲む必要があるのか、服薬意義を理解してもらわなければ離脱して適切な薬物治療が行えません。

 

また、用法用量に問題はないか確認する必要があります。

 

DOACの種類によって、用法用量に違いがあります。

 

1日2回飲むものもあれば1日1回で済むものもあります。

 

『1日1回で済むならその方がいいに決まってる。』

 

と思われた方、その通りなんですが、飲み忘れた場合の服薬のない間(一回の飲み忘れで、1日1回の薬なら24時間血中薬物濃度が低下した状態が続くが、1日2回なら12時間で済む)のイベントリスクを考慮すると必ずしも1日1回が良いとは限りません。

 

お歳で飲み忘れが頻繁にありそうな方は1日2回のDOACの方が適している可能性があります。

 

さらに、用量については、年齢、体重、腎臓の機能について把握しなければ、適正用量であるか判断できません。

 

「病院でも体重を聞かれたけど何で??」

 

それはこういった理由からです。

 

さらにさらに併用薬を確認して飲み合わせを確認します。

 

高齢になると併用薬も自ずと増える傾向にあるのでお薬手帳の活用は必須です。

 

脳梗塞の既往などで他に抗血栓薬を飲んでいれば出血リスクは当然上昇するので注意が必要です。

 

お薬をお渡しするのが薬剤師の仕事ですが、お渡しするだけが薬剤師の仕事ではありません。

 

先に挙げたような事を聞き出し、安全が確認できた上で適切な薬物治療であると判断できてはじめてお渡しすることができます。

 

この時期、風邪で早く薬をもらって帰りたい方も多くいらっしゃると思います。

 

中には待ち時間が長くお怒りになる方もいらっしゃるかもしれません。

 

辛いのはわかります(私も今年インフルエンザにかかりました)が、上記のような、今は無自覚でも命に関わる病気をお持ちの方も薬局にはいらっしゃる事を理解していただけると有り難く思います。

 

医師も100%間違わないとは限りません。

 

薬剤師がお渡しすれば最後、患者さんは間違いがあったとしても服用されます。

 

薬剤師は薬物治療の最後の砦として、頭を使って安心安全を第一に可能な限り速やかにお薬がお渡しできるように努めています。