薬剤師夫婦/夫です。

胃酸と鉄吸収の関係
鉄の吸収、とくに植物性食品に含まれる非ヘム鉄の吸収には胃酸が欠かせない。
胃酸は鉄を可溶化させ、三価鉄(Fe³⁺)を吸収しやすい二価鉄(Fe²⁺)に還元する役割を持つ。
そのため、胃酸が不足すると鉄の吸収が低下し、鉄欠乏に至ることがある。
PPIによる吸収低下の可能性
ランソプラゾールを含むプロトンポンプ阻害薬(PPI)は、強力に胃酸分泌を抑える薬である。
この作用により、長期使用者では鉄の吸収が妨げられる可能性がある。
実際に、フェリチン値の低下や鉄欠乏性貧血をきたした報告があり、PPIを中止すると改善した例もある。
また、PPIは胃酸だけでなく、鉄代謝を調整するホルモンにも影響する可能性が指摘されている。
影響が出やすい条件
短期使用では問題にならないことが多いが、数年以上の長期服用や鉄摂取不足、ビタミンC欠乏、腸疾患、慢性炎症などがある場合は影響が出やすい。
これらの条件が重なると、経口鉄を補っても十分に効果が得られない場合がある。
鉄欠乏を疑うときの対応
鉄欠乏が疑われるときは、フェリチンや血清鉄を測定し、PPIの使用状況を確認することが重要である。
必要に応じて制酸薬の種類を見直したり、静脈内鉄補充を検討することも有効である。
まとめ
ランソプラゾールは有用な薬剤である一方、長期使用によって鉄の吸収を妨げる可能性がある。
特に高齢者や長期服用者では、倦怠感やめまいなどの症状を見逃さず、鉄代謝の検査を行うことが望ましい。
「胃薬が鉄を減らす」という視点を持つことが、見落としのない臨床につながる。
