薬剤師夫婦/夫です。

疼痛管理において「NRS(Numerical Rating Scale)」は、患者自身の痛みを0から10の数値で表す指標である。では、NRS1という軽度の痛みを訴えたときでも、レスキュー(頓用)投与は行ってよいのだろうか。
NRSスコアの意味と一般的な対応
NRSは患者の主観的な痛みの強さを数値化したもので、0は「痛みなし」、10は「想像できる最悪の痛み」(←問題はあるが表現の仕方は様々)を意味する。
一般的には、NRS0では投与は不要、NRS1から3程度の軽い痛みでは薬物に頼らず経過観察や体位調整などの非薬物療法を中心に行う。
NRS4から6の中等度の痛みでは定時投与に加えてレスキューの併用を検討し、NRS7以上の強い痛みでは速やかにレスキュー投与を行うことが推奨されている。
したがって、NRS1という軽度の痛みは、基本的にはレスキュー投与の対象とはならない。
例外的に投与を考慮する場合
しかし、NRSという数値だけで一律に判断するのは適切とはいえない。以下のような状況では、NRS1であってもレスキュー投与を検討することがある。
まず、痛みが徐々に強くなっている場合である。次の定時投与までまだ時間があり、患者が「また痛くなりそう」と訴えているときは、予防的に少量を投与しておくことで苦痛の再燃を防げることがある。
次に、痛みの強さそのものよりも「痛みへの不安」が強い場合である。がん性疼痛の患者などでは、わずかな痛みでも「また強くなるのでは」という恐怖や緊張が生じ、実際のスコア以上に生活の質を下げることがある。このような場合、NRS1でもレスキューの少量投与が心理的安心につながる場合がある。
さらに、レスキュー薬の安全域が十分であり、副作用リスクが低い場合も投与を検討できる。たとえばオピオイド耐性が形成されている患者や、意識が清明で呼吸抑制の危険が少ない場合などが該当する。こうしたケースでは「予防的レスキュー」としての位置づけで少量を用いることが妥当とされる。
実際の運用ポイント
レスキュー投与の判断では、NRSスコアだけでなく、痛みの質や経時的な変化、表情、安心度といった要素を総合的に観察することが重要である。
また、投与後には効果の有無を必ず確認し、頻回にレスキューが必要な場合には定時投与量そのものの見直しを検討するべきである。
まとめ
NRS1で安定しており、表情も穏やかな場合はレスキュー投与は不要である。
一方、痛みの増悪傾向がみられたり、痛みに対する不安が強かったりする場合には、例外的に少量のレスキューを投与してよい。
そして、レスキューの使用が増えている場合は、定時投与の調整を行うことが望ましい。
痛みの数値だけでなく、「その痛みが患者にとってどんな意味をもつのか」を見極めることが、真の疼痛評価である。
NRS1であっても、その“1”が示す苦痛を見逃さないことこそ、疼痛管理における医療者の力量である。
