薬剤師夫婦の日常

子供のことや薬の話

ロモソズマブはなぜ「一生で12か月」だけなのか

薬剤師夫婦/夫です。

 

 

 

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骨粗鬆症治療薬のなかでも、ロモソズマブは特別な位置づけにある。

それは、生涯で12か月(=12回)までしか使用できないという明確な制限がある一方で、

**日本骨粗鬆症学会のガイドラインでも最も高い推奨(推奨度A)**を受けている薬剤だからである。

この制限と推奨の両立には、明確な理由がある。

 

 

 

 

 

 

ロモソズマブの「二重作用」と効果のピーク

 

 

 

ロモソズマブは骨をつくる働きを高める「骨形成促進」と、骨を壊す働きを抑える「骨吸収抑制」という

二つの作用を併せ持つユニークな薬剤である。

他の薬剤が主に「骨を壊さない」ことに焦点を当てるのに対し、ロモソズマブは

**骨量を積極的に増やす“攻めの治療薬”**といえる。

 


ただし、その骨形成促進作用は永続的ではない。

臨床試験(FRAME試験やARCH試験)では、投与開始から12か月を超えると

骨形成促進の効果が減弱し、骨吸収抑制の作用だけが残ることが確認されている。

つまり、1年を超えて投与を続けても追加的な骨形成効果は得られないため、

メーカーおよびガイドラインは「12か月まで」を上限としている。

 

 

 

 

 

 

なぜガイドラインで最も高く評価されるのか

 

 

 

ロモソズマブが高く評価される理由は、その骨折抑制効果の圧倒的な強さと速さにある。

FRAME試験では、プラセボと比較して椎体骨折を73%減らし、

ARCH試験ではアレンドロ酸との比較で椎体骨折を48%減少させた。

これらは他の薬剤を凌駕する結果であり、特に「骨折リスクが極めて高い患者」に対して

第一選択で用いるべき薬剤として位置づけられている。

 


さらに、ロモソズマブは投与後早期から効果が現れる。

ビスホスホネートやデノスマブが数か月後に骨折抑制効果を示すのに対し、

ロモソズマブは投与開始後1か月以内に骨形成が活発化し、骨密度が上昇し始める。

そのため、「今まさに骨折を防ぎたい患者」に最も向いている。

 

 

 

 

 

 

治療の流れと使い分け

 

 

 

ロモソズマブ治療は「12か月で完結する導入療法」として計画される。

治療が終了したら、その後にデノスマブやビスホスホネート系薬剤に引き継ぐことが推奨されている。

これは、せっかく増やした骨量を維持するためであり、

ロモソズマブ単独で終えると骨量が再び減少する可能性があるためである。

 


一方、骨折リスクが中等度の患者では、

デノスマブやビスホスホネートから開始してもよいとされている。

それでも効果が不十分な場合には、ロモソズマブへ切り替えることでさらなる骨密度上昇が期待できる。

つまり、ロモソズマブは「最初に使う切り札」であると同時に、

「他の薬で十分な効果が得られなかった場合のステップアップ薬」としても活躍する。

 

 

 

 

 

 

再投与は可能か

 

 

 

現在のところ、ロモソズマブを再び12か月投与することは推奨されていない。

再投与により骨形成が再び活性化する可能性は理論上考えられるものの、

長期的な安全性や効果を裏づけるエビデンスが不足しているためである。

また、保険適応上も1年を超える投与は認められていない。

 

 

 

 

 

 

実臨床における位置づけ

 

 

 

ロモソズマブは、

・すでに骨折を起こしている患者

・脊椎や大腿骨などの骨折リスクが極めて高い患者

・骨密度が著しく低下している閉経後女性

などに最も効果的である。

逆に、心筋梗塞や脳卒中など心血管イベントの既往がある場合には慎重投与とされるため、

適応判断には医師の慎重な評価が必要である。

 

 

 

 

 

 

まとめ

 

 

 

ロモソズマブは「一生で12か月しか使えない」薬ではあるが、

その1年間で得られる骨形成促進効果と骨折抑制効果は極めて大きい。

1年という限られた期間の中で最大の効果を発揮し、

その後はデノスマブやビスホスホネートによって骨量を維持していく――

これが現在の骨粗鬆症治療の最も効果的なシーケンスである。

 


限られた期間で確実に成果を出す、まさに“導入の切り札”がロモソズマブである。