薬剤師夫婦/夫です。

慢性閉塞性肺疾患(COPD)の治療において、「ビレーズトリ®️(フルチカゾンフランカルボン酸エステル/グリコピロニウム/ビランテロール)」を初回から導入してよいのか?という疑問を持つ医療従事者は多い。結論からいえば、「全例で初回導入が推奨されるわけではない」が、特定の病態やリスクを有する症例においては、初回からの導入も妥当な選択肢となり得る。
ビレーズトリ®️とはどのような薬か
ビレーズトリ®️は、ICS(吸入ステロイド)、LAMA(長時間作用性抗コリン薬)、LABA(長時間作用性β2刺激薬)の3成分が1つのデバイスに配合されたトリプル吸入薬である。
COPD治療においては、症状コントロールおよび増悪予防を目的として、ステップアップの最終段階で導入されることが多い。
GOLDガイドラインに基づく初期治療の原則
GOLD(Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease)ガイドラインでは、COPDの初期治療は「気管支拡張薬(LABAまたはLAMA)単剤」から開始し、症状や増悪頻度に応じて「LABA+LAMA併用」、さらには「ICS追加」のトリプル吸入療法へと段階的に強化することが基本戦略とされている。
ICSを含む吸入薬(つまりビレーズトリ®️)の使用は、以下のようなケースに限られている。
- 好酸球数が高値(概ね300/μL以上)
- 喘息の合併が疑われる
- 頻回の増悪歴がある
初回から導入を検討してもよい症例とは
初回からビレーズトリの導入が検討されるのは、主に以下のような特徴を持つ症例である。
まず、血中好酸球数が高値(概ね300/μL以上)である患者は、ICSによる効果が期待できるため、トリプル吸入薬の導入が適している。また、喘息の合併がある、あるいは喘息と診断されていなくとも気道の可逆性が疑われるような症例でもICSの有用性が高く、トリプル吸入薬による初期治療が合理的とされる。
さらに、過去1年以内に中等度以上の増悪(例:抗菌薬やステロイドの投与を要したケース)を繰り返している患者は、初期段階から増悪予防効果の高い治療が求められるため、ビレーズトリを選択する根拠となる。また、呼吸困難の程度が強く、早期に症状コントロールを図る必要がある場合も、トリプル吸入薬による初期治療が有効であると考えられる。
初回導入を避けた方がよいケース
一方で、ビレーズトリのようなトリプル吸入薬を初回から導入すべきでないと考えられるケースも多い。
たとえば、軽症のCOPDで、GOLD分類でAまたはBに該当するような患者では、LAMAまたはLABA単剤からの開始が標準である。こうした患者に対してICSを含む治療を初回から用いることは、効果が限定的である上、副作用リスクを無用に高める可能性がある。
また、増悪歴が全くない、あるいは非常に少ない患者においても、ICSを含むトリプル治療の必要性は低いとされる。加えて、肺炎の既往や高齢といった背景がある場合、ICS使用によって肺炎リスクが上昇するため、慎重な判断が求められる。
さらに、喘息の併存がなく、血中好酸球数が低値(150/μL未満)である患者においては、ICSの効果が得られにくいため、初回からのトリプル吸入薬導入は避けるべきと考えられる。
このように、COPDにおけるビレーズトリの初回導入は、個々の病態評価に基づいた適応判断が重要であり、標準治療から外れる場合はその理由を明確にしたうえで使用すべきである。
実臨床での運用例
たとえば、60代男性で喘息既往があり、近年は労作時の呼吸困難が悪化、さらに過去1年で2回の増悪(入院はなし)を経験した場合は、初回からのビレーズトリ導入も十分に検討に値する。一方で、75歳・非喫煙女性、軽度の呼吸困難のみで、これまで増悪歴がない場合には、LAMA単剤からの治療が妥当である。
まとめ
COPD治療において、ビレーズトリ®️を初回から導入してよいかどうかは、患者ごとの病態評価とリスク・ベネフィットのバランスによって判断すべきである。標準的には段階的治療が基本だが、増悪リスクが高くICSの効果が期待できる症例においては、初回からのビレーズトリ導入も十分に合理的であるといえる。
