薬剤師夫婦/夫です。

漢方薬に含まれる「カンゾウ(甘草)」は、筋肉の痙攣や咳、胃腸の不調などに使われる非常に有用な生薬です。しかし、長期間あるいは高用量で使用すると「偽アルドステロン症」と呼ばれる電解質異常を引き起こすことがあります。
今回は、その仕組みと注意点について解説します。
偽アルドステロン症とは?
本来、体内の水分や電解質バランスを調整しているのは「アルドステロン」というホルモンです。
このホルモンは腎臓の細胞内にある受容体に結合し、ナトリウム(Na⁺)を体に保持し、カリウム(K⁺)を排出させる働きをします。
その結果として、血圧が上がり、体内に水分が溜まります。
しかし、甘草を長期間摂取すると、アルドステロンが正常でもないのに、体内が「アルドステロンが多い」かのような状態になります。これが「偽(=擬似)アルドステロン症」と呼ばれる所以です。
仕組み:なぜコルチゾールがアルドステロンのように?
甘草の有効成分「グリチルリチン酸」は、腸内でグリチルレチン酸という形に変わります。
このグリチルレチン酸は、腎臓に存在する酵素「11β-HSD2(11β-ヒドロキシステロイド脱水素酵素)」を阻害します。
この酵素は、体内に多く存在するコルチゾール(ストレスホルモン)を、ミネラルコルチコイド受容体に結合できない「コルチゾン」に変える働きがあります。
ところがこの酵素が阻害されると、コルチゾールがそのまま受容体に結合してしまい、アルドステロンと同じような作用をしてしまうのです。
出現する症状
こうして本来のアルドステロンとは無関係にミネラルコルチコイド受容体が刺激されることで、次のような症状が起こります:
低カリウム血症
高ナトリウム血症
高血圧
浮腫(むくみ)
倦怠感、筋力低下、まれに不整脈や意識障害
どんな漢方薬に注意?
以下のような甘草含有処方で偽アルドステロン症が報告されています:
芍薬甘草湯
小青竜湯
麻黄湯
柴胡桂枝湯
甘麦大棗湯 など
特に複数の漢方薬を併用している場合、総グリチルリチン量が過剰になるリスクが高まるため注意が必要です。
予防と対策
長期投与が必要な場合は、電解質(特に血清カリウム)を定期的にモニター
高齢者や腎機能が低下している患者では特に注意
むくみや高血圧、脱力感が出たら甘草の使用を中止し、受診を。
まとめ
甘草は古くから使われてきた信頼性の高い生薬ですが、「使いすぎ」は禁物です。
コルチゾールが本来とは異なる振る舞いをして、体内バランスを崩してしまうリスクがあるということを知っておくことが、安全な漢方療法の第一歩です。
