薬剤師夫婦/夫です。
特別養護老人ホーム(特養)の現場では、今、利用者の重症化が急速に進んでいる。数年前までは数十人が待機していた入所枠が、いまや空きが出るほどに状況が変化している。そうした中、運営側も含めて「できるだけ施設内で看取りまで含めて完結させ、入院期間を短くしたい」という意識が高まりつつある。
しかしその一方で、90歳を超える高齢入居者の間で尿路感染の頻発が問題となっていた。数人単位で同時に発生することもあり、結果として抗菌薬が頻回に使用される。薬剤師としては、この状況に強い懸念を抱かざるを得なかった。
調剤薬局からの指摘、そして違和感
この状況を知った調剤薬局の薬剤師からは「抗菌薬の頻回処方は耐性菌のリスクが高い」との指摘があった。それ自体は薬剤的に妥当な意見であり、筆者も納得せざるを得なかった。
しかし同時に違和感も覚えた。なぜ、その薬剤師は自ら処方医と協議しなかったのか。調剤薬局に勤務していた経験から、彼らが医師との協議に慎重な傾向があることは理解していた。しかし、「医師の意図を知る」「現場の状況を知る」ことなしに、抗菌薬使用の是非を語ることは、やや片手落ちではないかと感じた。
医師との協議、そして変化の兆し
疑問をそのままにせず、筆者は主治医と対話を重ねた。その結果、医師からは以下のような見解が示された。
「不要な降圧薬などはすでに整理し、施設での生活を可能な限り継続できるよう薬物治療の見直しには取り組んでいる。その中で抗菌薬の使用は命に直結する場面が多く、優先順位は高い。尿路感染から敗血症へと進行する危険性が高いと判断している。」
この言葉に、筆者はただ抗菌薬の使用頻度に目を向けるだけでは見えなかった現実を知ることとなった。臨床判断の優先順位と現場の制約を踏まえた選択としての抗菌薬使用であり、納得せざるを得なかった。
感染頻発の背景にあった「排泄ケアの盲点」
とはいえ、感染の発生が多すぎる点に変わりはない。主治医自身もその点に疑問を持ち、施設内で発症時期や入居者の症状、診断根拠を洗い直すことになった。結果、意外な事実が浮かび上がった。
それは「軟便・水様便後の処理が追いつかず、陰部が不潔になっている」ことだった。とくにADLが低下した寝たきりの入居者においては、自排便後の陰部ケアが適切に行えず、その結果尿路感染へと発展していたのだ。中には肺炎との併発例も見られた。
排便コントロールの見直しと、薬剤師の役割
この状況を踏まえ、施設内では排便パターンや便性の評価、下剤の使用状況などを再検討し、排便コントロールの方法を改善する運びとなった。陰部洗浄やパッド交換のタイミングも見直され、ケアスタッフの意識改革が進められた。
薬剤師としての筆者が、感染症という「薬の出番」で始まった話題から、排泄ケアという「薬では解決できない課題」へと踏み込んだことは、医療と介護の連携という意味で非常に大きな意義があったと感じている。
「薬を見る」から「生活を見る」薬剤師へ
この一連の経験は、薬剤師としての視点を広げる大きなきっかけとなった。薬の量、種類、副作用――そうした「薬中心の視点」から、「なぜこの薬が必要になったのか」「その背景にある生活やケアの現状は何か」へと視野を拡げたことで、結果として薬を減らすことにもつながった。
調剤薬局薬剤師、病院薬剤師、在宅薬剤師と、それぞれの立場によって見える景色は異なる。しかし、その全てが患者の生活を支える一員であることに変わりはない。だからこそ、疑問を持ち、対話をし、仕組みを変えることを恐れてはいけない。
薬剤師が「薬の専門家」にとどまる時代は、もう終わりつつある。
おまけ
愛用してる医薬品
アリナミンEXプラスを続けることで、肌荒れや吹出物の改善を実感している。含まれるビタミンB1誘導体は皮膚代謝を助け、ビタミンB6は皮脂分泌の調整と抗炎症作用で肌荒れを防ぐ。ビタミンEの抗酸化作用は肌細胞を保護し、肌の調子を整える。長年の使用から、安全性の高さを実感しており、肌の健康維持に役立つと感じている。