薬剤師夫婦/夫です。
ジゴシン®️(ジゴキシン)とラニラピッド®️(メチルジゴキシン)は、ともにジギタリス系強心配糖体であり、心不全の収縮力改善や心房細動の心拍数抑制に用いられる。作用機序は同等だが、薬物動態、とりわけ生物学的利用率(吸収率)に違いがある点が臨床上の鍵となる。
薬物動態の違い
ジゴキシン:経口吸収率は約70%。空腹時と食後の変動が比較的大きく、血中濃度のばらつきが生じやすい。
メチルジゴキシン:吸収率はほぼ100%、かつ日内変動が小さい。安定した血中濃度が得られる反面、体内蓄積による中毒リスクが上がる。
換算の目安
臨床的には ジゴキシン0.25 mg ≒ メチルジゴキシン0.1 mg が標準的な等価用量とされる。半量換算、四分の一量換算の例は次のとおりである。
ポイント:メチルジゴキシンは吸収率が高いため、中毒を避ける目的で「若干少なめ」に開始し、血中濃度(0.5–0.9 ng/mL)と臨床効果で増減を判断するのが安全策である。
切り替え手順
ジゴキシン中止後24 時間あける(半減期36–48 時間のため)。
メチルジゴキシンを上記換算量のやや控えめで開始。
5–7 日後のトラフ値を測定し、0.5–0.9 ng/mL内なら維持。
効果不十分かつ濃度低値であれば0.025 mg単位で漸増。
中毒回避の要点
低カリウム血症はジギタリス感受性を高める。利尿薬併用例では特に電解質を補正する。
腎機能低下では半減期が延長しやすい。eGFR 60 mL/min/1.73 m²未満なら初回量をさらに減量。
典型的中毒症状は「嘔気・食欲不振」「黄視」「徐脈」。早期に気づくためには患者教育が必須である。
まとめ
ジゴキシン0.25 mgとメチルジゴキシン0.1 mgは等価と覚えても、吸収率差による中毒リスクを念頭に置き、メチルジゴキシン移行時は控えめスタート+TDMが鉄則である。高齢者や腎機能低下例では0.025 mg刻みで慎重に調整し、安全域(0.5–0.9 ng/mL)で最大限の治療効果を引き出すことが、現代的ジギタリス療法の要諦である。