薬剤師夫婦の日常

子供のことや薬の話

慢性期病院での退院時服薬指導という挑戦

 

薬剤師夫婦/夫です。

 

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慢性期病院における服薬指導は、急性期病院と比べると実施率が低く、形骸化している印象を持つ人も多い。しかし、その必要性が低いというわけではない。むしろ、医療の継続性や再入院防止という観点からは、極めて重要な役割を担っている。今回、2日連続で実施した退院時服薬指導を通して、薬剤師の介入の意義を再認識した。

 

 

 

 

 

 

DOAC導入患者との対話

 

1人目は、DVT(深部静脈血栓症)によりDOACが導入された男性。処方は降圧薬2種とDOACの計3剤。神経質な性格の方であり、新たに始まる抗凝固薬への不安が強く見られた。

 


このようなケースでは、薬剤師の「説明力」が問われる。出血傾向というリスクを過小評価せず、しかし不安を過度に煽ることなく、血栓形成の抑制という服薬の意義を丁寧に説明した。本人も「きちんと話を聞けて安心した」と語っており、納得の上での服薬が期待できる。

 

 

 

 

 

 

心不全患者への介入と処方漏れの回避

 

2人目は高齢の心不全患者。再入院を経て退院する際の指導を行った。情報収集中に違和感を覚え、処方内容を確認すると、入院中に導入された利尿薬など5種の薬が退院処方から漏れていた。原因は、臨時処方として扱われたまま退院オーダーに反映されていなかったためと思われる。

 


このままでは、再び心不全の増悪を引き起こしかねない。担当医と連携し、必要な薬剤を退院処方に追加。患者本人には、「利尿剤は心臓の負担を軽くするため、体の余分な水分を出す薬です」と視覚的なイメージで説明し、理解を得た。

 

 

 

 

 

 

情報の「断絶」をつなぐ薬剤師の役割

 

今回の2例に共通するのは、「誰かが気づかなければ、そのまま退院していた可能性がある」という点である。慢性期では診療もルーチン化しやすく、指導が省略されることも少なくない。だが、患者個々の理解や処方の整合性を誰かが確認しなければ、薬物治療の質は担保されない。

 


薬剤師が居室まで足を運び、服薬への理解を深め、処方ミスを防ぐこと。それは単なる服薬指導ではなく、医療の継続性を支える最後の砦であるとも言える。

 

今回の事象は、看護師の『薬剤師に介入してもらうことが本人にとって有益』との判断があり、依頼があってこそであった。

医療安全の観点からも適切に介入できたのは、他職種の信頼関係があってこそと感謝したい。

 

 

 

 

 

 

薬剤師は「処方された薬を渡すだけの職種」ではない

 

今回の経験は、薬剤師の職能が診療の質を左右し得ることを改めて示してくれた。慢性期であっても、いや慢性期だからこそ、薬剤師の関与は欠かせない。

 


「ただのルーティン」と見過ごされがちな場面にこそ、プロフェッショナルの価値が宿る。そう確信できた2日間だった。