薬剤師夫婦/夫です。
~STOPP/START・Beers・FORTA・日本ガイドラインの整理~
高齢者における薬物療法は、年齢や併存疾患、腎機能低下などによりリスクと効果のバランスが複雑になる。ポリファーマシー(多剤併用)やPIM(不適切処方)が日常的に議論される中で、医療従事者が参考とすべき「薬剤クライテリア(基準)」や「ガイドライン」が複数存在している。本記事では、近年改訂・発表された主要な指針をまとめ、現場でどのように活用すべきかを整理する。
1. STOPP/STARTクライテリア(2023年改訂:v3)
欧州発の「STOPP/STARTクライテリア」は、2023年に大幅なアップデートが行われた。
STOPP(潜在的不適切処方):80項目 → 133項目
START(必要なのに処方されていない薬):34項目 → 57項目
このv3では、薬物-薬物相互作用や薬物-疾患相互作用の観点が強化され、より実臨床に即した基準となっている。また、2025年にはユーザビリティを高めたチェックリストツールも公開されており、ベッドサイドでの活用にも対応しやすい。
2. STOPP-J(日本版STOPPクライテリア)
日本老年医学会によって策定された「STOPP-J」は、欧州基準をベースに日本の医療事情(薬剤・剤形・用法)に合わせてカスタマイズされたもの。
構成:19カテゴリー・28サブカテゴリー
特徴:ベンゾジアゼピン系薬・H2ブロッカー・利尿薬・抗精神病薬など、高齢者に頻用されがちな薬剤が中心
ある研究では、STOPP-JによってPIMの検出率が欧州版よりも高かったとされており、日本国内では実用性の高いスクリーニングツールといえる。
3. Beers Criteria(2023年米国改訂、日本語対応も進む)
米国老年医学会が定期的に改訂する「Beers Criteria」は、特に米国式医療モデルに基づいており、**「高齢者に使用すべきでない薬剤群(PIMs)」**のリスト化が主眼である。2023年版では、抗コリン薬、鎮静薬、NSAIDsなどに対する注意喚起が強化された。日本でも翻訳や日本薬剤師会による普及活動が行われている。
4. FORTAリスト(JAPAN-FORTA)
欧州由来の「FORTA(Fit fOR The Aged)」は、日本版(JAPAN-FORTA)としても改編されている。
特徴:A(適正)~D(回避すべき)で薬剤を4分類
対象:210品目・24の疾患領域
この評価システムは直感的で使いやすく、「処方の妥当性を見直す」目的で高い効果を発揮する。
5. 日本老年医学会「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2025」
日本における高齢者薬物療法の中核的なガイドラインであり、以下の特徴がある。
慎重投与薬・開始検討薬リストの整備
17領域に及ぶ疾患別の投与指針(例:循環器、精神疾患、糖尿病、消化器、在宅)
クリニカル・クエスチョン(CQ)形式で根拠と解釈を提示
実際の診療における判断支援として、また多職種連携の共通言語としても非常に有用である。
高齢者に対する薬物療法は「安全」と「必要性」のバランスが鍵となる。医師・薬剤師・看護師それぞれが、複数のガイドラインを組み合わせ、現場での“判断”に活かすことが、これからの高齢者医療の質向上に繋がる。