薬剤師夫婦の日常

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注射薬の3点チェックとは――施設ごとに異なる定義と共通の目的

薬剤師夫婦/夫です。

 

 

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医療現場で「3点チェック」と聞けば、多くの人が“安全確認”を思い浮かべるだろう。

しかし、この3点チェックは施設や職種によって定義や実施方法が微妙に異なる。

その根底にある目的はただひとつ、医療安全を最優先に、患者に正確で安全な治療を届けることである。

 

 

 

 

 

 

薬局での3点チェック:患者・医薬品・処方箋

 

 

 

薬剤師が調剤や注射薬の監査を行う際に実施する3点チェックは、一般的に「患者」「医薬品」「処方箋」の3つを確認する。

まず、患者の確認では、氏名やID、診療科などを照合し、誤った患者に薬が調製されないようにする。

次に、医薬品の確認では、薬剤名、規格、用量、使用期限、ロット番号などを確認し、類似薬や異なる濃度製剤との取り違えを防ぐ。

そして、処方箋の確認では、オーダー内容と実際の調製内容を照合し、処方誤読や計算ミス、単位の誤りを防止する。

 


この3つの確認を通じて、薬剤師は「医師の指示どおりに正しい薬を正しい患者へ届ける」ための責任を果たしている。

つまり、薬局における3点チェックは調製段階における最終防衛線であり、重大な投与ミスを未然に防ぐ役割を担っている。

 

 

 

 

 

 

病棟での3点チェック:患者・薬剤・投与条件

 

 

 

一方で、病棟における3点チェックは、投与直前の安全確認として行われる。

ここでは、対象となる3つが少し異なり、「患者」「薬剤」「投与条件(または時間)」の確認が中心となる。

 


まず、患者の確認では、リストバンド・氏名・IDなどを照らし合わせ、同姓同名や転棟直後などの取り違えを防止する。

次に、薬剤の確認では、投与する薬剤名、濃度、投与経路、配合液の種類や期限などを慎重に照合する。

さらに、投与条件の確認では、投与時刻、速度、投与間隔などを確認し、薬効や安全性に影響するタイミングの誤りを防ぐ。

 


病棟では薬剤師と看護師が連携しながら、これらの確認を二重に行うことで、調製段階と投与段階の両面からの安全網を築いている。

 

 

 

 

 

 

施設ごとに異なる定義――しかし目的は同じ

 

 

 

3点チェックの内容は、実際には施設によって微妙に異なる。

ある病院では「患者・医薬品・処方箋」と定義し、別の施設では「患者・薬剤・時間」、または「患者・薬剤・経路」としている場合もある。

近年では、これをさらに発展させた「5点チェック(患者・薬剤・時間・経路・目的)」を採用している施設も少なくない。

 


この違いは、各施設が独自に構築した安全文化や業務体制を反映しているものであり、どれが正しいというものではない。

重要なのは、どの現場でも医療安全を最優先に、確認の質を高める努力が続けられているという点である。

 

 

 

 

 

 

医療安全の本質は「確認の積み重ね」

 

 

 

薬剤師と看護師、そして医師の間で行われる確認は、単なる手順ではない。

それは「誰もが間違える可能性がある」という前提に立ち、ヒューマンエラーを前提とした仕組みづくりの一部である。

バーコード認証や電子カルテ照合システムなどの技術が導入されても、最後に安全を守るのは「人の確認」である。

 


3点チェックの本質は、確認を怠らない姿勢そのものが医療安全の根幹であるということに尽きる。

形式や定義が異なっても、全ての医療従事者が共通して守るべき理念は一つ――

「正しい薬を、正しい患者に、正しい方法で届ける」ことである。