薬剤師夫婦の日常

子供のことや薬の話

自傷行為とADHDに対する薬物治療の考え方

 

薬剤師夫婦/夫です。

 

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自傷行為に直接の適応を持つ薬は存在しない

 

 

 

自傷行為に対して、現時点で「これ自体」を治療対象とする薬は存在しない。しかし、自傷行為は多くの場合、うつ病や境界性パーソナリティ障害、PTSD、双極性障害といった精神疾患の症状の一つとして現れる。そのため、基礎疾患に対する薬物治療を行うことで、自傷行為の頻度や衝動性を間接的に抑えることができる場合がある。

 


たとえば、うつ病や不安障害に対してはSSRIやSNRI、境界性パーソナリティ障害に対しては抗精神病薬や気分安定薬が使用される。双極性障害にはリチウムやラモトリギンが、PTSDにはSSRIや抗不安薬が用いられることが多い。

 

つまり、自傷行為へのアプローチの中核は弁証法的行動療法(DBT)などの心理社会的介入である。

 

 

 

ADHDには薬物治療が確立している

 

 

 

一方、ADHD(注意欠如・多動症)に対しては、薬物治療が明確に確立している。日本で承認されている薬は大きく分けて中枢刺激薬と非刺激薬の2系統があり、それぞれの患者の特性に応じて使い分けられる。

 


中枢刺激薬には「コンサータ(メチルフェニデート徐放錠)」や「ビバンセ(リスデキサンフェタミン)」がある。即効性があり、集中力を高める効果が強い一方、依存性のリスクがあるため慎重な管理が求められる。

 


非刺激薬としては「ストラテラ(アトモキセチン)」と「インチュニブ(グアンファシン)」がある。これらは依存性の懸念が少なく、家族や学校側から安心感を持たれることが多い。特にインチュニブは衝動性や多動性への効果が期待される。

 

 

 

薬物治療は“万能”ではない

 

 

 

自傷行為にもADHDにも言えることだが、薬物療法は万能ではない。特に自傷行為の場合は、背景にある感情や対人関係の問題に向き合う必要があり、薬だけでは解決しきれない。また、ADHDにおいても薬物療法は生活の質を高める一助ではあるが、環境調整や行動療法、支援体制の整備といった包括的な対応が重要である。