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イフェンプロジルの代替としてニセルゴリンは妥当か?

薬剤師夫婦/夫です。

 

 

 

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イフェンプロジルは、めまい・耳鳴り・頭部外傷後遺症などに広く用いられてきた脳循環改善薬である。一方で、代替薬としてニセルゴリンが検討される場面がある。しかし両薬剤は作用機序や適応の重心が異なるため、目的に即した選択が重要である。

 

 

 

イフェンプロジルとニセルゴリンの違い

 

 

 

イフェンプロジルは、α₁受容体遮断作用とNMDA受容体拮抗作用を併せもち、脳血流を改善するとともに神経の過剰興奮を抑える特徴をもつ。主な適応は「めまい」「耳鳴り」「頭部外傷後遺症」などであり、耳鼻科や神経内科で汎用される。

 


一方、ニセルゴリンは同じくα₁受容体遮断作用を有するが、血小板凝集抑制や代謝促進作用を通じて脳循環を改善する。主な適応は「脳梗塞後遺症」「慢性脳循環不全」「認知機能低下」などであり、より中枢性・血管性の疾患を対象としている。

つまり、同じ脳血流改善薬であっても、臨床での使用目的はやや異なる。

 

 

 

代替としての妥当性

 

 

 

脳循環障害に伴う倦怠感や集中力低下などを目的とする場合、ニセルゴリンはイフェンプロジルの代替として妥当である。両者とも脳血流改善作用を有し、高次脳機能の補助的改善が期待できる。

 


しかし、めまいや耳鳴りを主訴とする場合には注意が必要である。ニセルゴリンはこれらに対する保険適応をもたず、作用点も異なるため、臨床効果が十分に得られない可能性がある。このような場合は、ベタヒスチンやジフェニドールなど、より内耳・前庭系に作用する薬剤を選択する方が理にかなっている。

 

 

 

高齢者への使用上の注意

 

 

 

ニセルゴリンはα₁受容体遮断作用を有するため、低血圧や起立性めまいを起こすリスクがある。特に高齢者では立ちくらみやふらつきが悪化するおそれがあり、慎重な投与が求められる。イフェンプロジルも同様の作用を持つが、臨床上の低血圧リスクは比較的少ないとされる。

 

 

 

まとめ

 

 

 

イフェンプロジルの代替としてニセルゴリンを用いることは、目的が脳循環改善であれば妥当である。しかし、めまいや耳鳴りの改善を目的とする場合には完全な代替とは言えず、適応や作用点の違いを理解した上で薬剤を選択すべきである。

薬理的には似て非なる両薬剤——代替を検討する際には「何を改善したいのか」という目的を明確にすることが何より重要である。